遅延時間(レイテンシー)について解説します。
光伝送を駆使したDOPN(ダイナミック光パスネットワーク)は、途中にIPルータを介さず、光を光のまま伝送するネットワークであり、遅延する要素がありません。微小な遅延が生じるのは物理的な光の伝搬速度があるからであり、1秒間に地球を7まわり半、すなわち真空中で30万km/秒、光ファイバのガラス媒質中ではその屈折率が1.5、したがって波長短縮率は1/1.5=67%なので、伝搬速度はざっと20万km/秒であります。
100km伝送しても
100[km]/200,000[km/秒]=0.0005[秒]=0.5[ミリ秒]
しかかかりません。一方、映像のフレームレートは例えば60[フレーム/秒]ですので、1フレームは16.7[ミリ秒]と、光伝送のほうがけた違いに速いことがわかります。
「光の遅延が微小であることは理解できるが、光と電気信号を変換する部分に遅延はないのか?」というご指摘があるかもしれません。基本的にそこも無視できる小さな値となります。映像インタフェースであるHDMIのデジタル信号を光に変換する場合、HDMIにて伝送される3レーン(3本の信号線)の映像に関する高速信号を、光シリアル信号に変換しなければなりません。原理的にはHDMIを一度フリップフロップでラッチして順次シリアル信号に変換するので、HDMI側の信号レート1クロック分遅れることになります。HDMI1.4 にて4K/60P/4:2:0を扱う場合1レーン当たり約3Gbpsですので、0.3ナノ秒となります。
また光からHDMI電気信号に変換する場合は、逆にシリアルの光信号を3本の電気信号に分けなければなりません。これも、HDMIの1クロック分必要で上記と同じ0.3ナノ秒です。
その他、光伝送部分のトランシーバ内でリタイミング等を行えば10Gb/sクロックの1UI(Unit Interval)すなわち0.1ナノ秒の遅延。
どこかで多少のパイプライン処理をしたとしても合計ナノ秒のオーダです。その他回路素子の中を信号が流れますが、ほとんどネグリジブル。
それらよりもケーブル遅延のほうがずっと大きいです。つまり、HDMIケーブルはHDMI1.4の場合は最長5mまで許容されています。遅延時間は同軸の波長短縮率を67%として5ナノ秒/1mあり、5mケーブルだったら25ナノ秒。カメラ側、モニタ側両方に使ったとして50X2=100 ナノ秒。
いずれにせよ、映像のフレームレート16.6ミリ秒よりも5桁程度小さな話となります。
遅延が極めて小さいということは、遅延時間の揺らぎ、すなわちジッタが小さいもしくは「無い」ということにもつながります。遠隔操縦その他のアプリケーションにおいて重要であり、「確定遅延」とか「コントロールされた遅延」が注目されています。弊社製品はこの要求にもこたえることができます。
はじめに説明したように、光伝送部分はゼロ遅延と言っても過言ではありません。ではテレセッションの遅延はどこで生じているのでしょうか。
それは、ビデオカメラが第一です。放送局用の何百万円もするものならいざ知らず、普及を目指して私共がご推奨する民生用機器では数フレームの遅延が生じます。ビデオカメラというのは、センサーの信号をそのまま出力しているのではなく、色々な画像処理を施して出力します。画像センサーの出力から自然な色を再現し、もしくは人間が好ましいと思える映像信号を作る処理を施します。さらに、何百万画素以上もある画像センサー自体にはそれなりの欠陥がありますので、それを気づかせないよう欠陥画素を周囲画素の情報で補うような操作もします。これらにより、少なくとも2~3フレーム程度もしくはそれ以上の遅れが生じるのが通常です。
もう一つの大きな要因はディスプレイです。これも、見る人が好ましいと思うような画像処理を加えます。テレビの画質設定をいじると、「鮮やか」とか「映画」とかいろいろな言い方がありますが、映像の見え方を変えることができます。この処理のために時間を使っています。遅延が少ないことが必要なアプリケーションとして「ゲーム」があります。画のきれいさは多少犠牲にして、というよりもともときれいな画なので、そこは気にならず、画像処理を簡便にして遅延を少なくする機能です。低遅延のためには「ゲームモード」に設定することは必須と言っても良いでしょう。
これらの処理をしないと、臨場感のある画が作れないわけですから、ある程度の遅延は致し方ないとは思います。
ビデオカメラやディスプレイの新しい機器はどんどん出てきますが、なかなかゼロにはできない領域と感じます。