インターネットをはじめとする世界の情報通信インフラは、今や光通信技術なくしては成り立たない状況になっています。光通信を一言でいうと、電気信号を光信号に変換して送信先まで伝送し受信側で光信号を元の電気信号に変換して通信を実現する技術です。その中で光信号の伝送に関する部分を光伝送技術といいます。

光伝送技術は、大きく3つの構成要素から構成されます。一つは、電気信号を光信号に変換する光送信器、次に、光信号を伝送する光ファイバをはじめとする光伝送路、そして、光信号を電気信号に変換する光受信器です。ほとんどの通信ではお互いに情報を伝達し合う必要がありますので、光伝送は下図のとおり、一対の双方向伝送が基本になります。その際端末には、送信器と受信器がひとつになった光送受信器、すなわち、光トランシーバを用いることになり、光伝送路は、原則各方向に一本ずつ、すなわち2本使用することになります。

光伝送の基本構成図

しかし、そもそも通信をするのに何故わざわざ光を使うのでしょうか。例えば、オフィスや家庭で使用するLANケーブルやHDMIケーブルなどは、光ではなく安価な電気信号を銅線で伝送しています。実は、銅線などの電気配線は信号が伝搬する際に誘導損失が発生します。これは短距離ではあまり影響を受けません。ところが、誘導損失は帯域が大きいほど大きく、高速で帯域の大きい信号ほど長距離を伝送させるのが難しくなります。一方、光信号は伝搬中に誘導損失を受けない性質があります。特に、高純度な石英は近赤外領域で光の損失が広帯域にわたって非常に小さいため、光伝送路の材料に適しています。このようなことから、現在普及している光通信システムでは1.3μmや1.5μmなどの波長をもつ近赤外光を光信号に用いて、石英光ファイバを光伝送路として用いているのです。余談になりますが、2009年のノーベル物理学賞は、石英を材料とした光ファイバを用いて長距離光通信が可能であることを世界で初めて提案したCharles K. Kaoに送られています。

銅線に比べると圧倒的に低損失な石英光ファイバも、損失が全くないわけではなく距離に限界はあります。例えば、最も普及しているシングルモードファイバの減衰係数は0.2dB/km以下なので、光信号が100km先では20dB(すなわち99%)も減衰してしまいます。

光増幅器は、光信号を光のまま増幅する装置ですが、これを多段に用いることで、数百から数千キロ以上におよぶ光通信システムが可能となり、すでに世界中に敷設されています。光増幅器を用いた光伝送システムの概要図を以下に示します。

光増幅器を中継器とする長距離光伝送の基本構成

光伝送のもう一つ重要な特長は、光ファイバの低損失帯域が数十THzにもおよぶことです。光増幅器も、光ファイバほど広帯域ではありませんが、最低でも数THzの帯域を有しています。すなわち、光ファイバ(および光増幅器)による光伝送路が敷かれた状態にあれば、光トランシーバの構成を変更するだけで、帯域をアップグレードしていくことが可能になります。特に、光伝送路の広帯域性を活用する波長分割多重(WDM)技術を適用することで経済的かつ簡便に帯域のアップグレードを実現することができます。

世の中で要求される帯域は年々増大しており、近年ではテラビット級の光トランシーバの量産が本格化しつつあります。また、広帯域化が普及する過程では、当然トランシーバのビット当たりの単価も下がっています。最先端は800Gbit/sや1.6Tbit/sの光トランシーバですが、翻って10Gbit/sのトランシーバは現在どうなっているでしょうか。オフィスや家庭環境では、10Gbit/sはまだまだ十分に大きな帯域で着実に普及が進んでおり、10Gbit/s光トランシーバは、一般消費者がいつでもアマゾンなどで安価に購入できるほど技術が成熟しています。一方で、10Gbit/sの帯域を保証する専用回線も、安価になってきたとはいえ、ベストエフォット型回線に比べると桁違いに高価なのも事実です。同じような10Gbit/sの光トランシーバや光ファイバを用いているのに、何故これほどコストが違うのでしょうか。それは、帯域を占有するか、複数ユーザで共有するかの違いです。例えば、10Gbit/sの総容量を有するネットワークを10名で共有する場合、各ユーザが負担するネットワークコストは10分の1にできます。しかし、他ユーザが同ネットワークを使用していなければ、10Gbit/sの帯域を使うことができますが、仮に10ユーザが同時にこのネットワークを使用した場合、各ユーザが利用できる帯域は最大でも1Gbit/sとなってしまいます。このように、実効帯域を比較すると帯域当たりのコストは両者の場合それほど変わらないことになるでしょう。

ここでは、10Gbit/sの帯域を複数ユーザで共有する構成を考えましたが、常時10Gbit/sの帯域を占有して使うことができるシンプルで安価なネットワークを構築する手段はないものでしょうか。最もシンプルな構成として、離れた2つのオフィス間を10Gbit/sの帯域で常時接続する構成を考えてみましょう。すなわち、上で示した光伝送の基本構成だけで十分な場合です。10Gbit/sの光トランシーバは、Amazonで誰でも安価に購入できるので、あとは2拠点間をつなぐ光伝送路があれば良いことになります。10Gbit/s程度の光トランシーバの多くは、ロスバジェットが20~30dBくらいありますので、100km以下の距離であれば、光増幅器を用いなくても伝送が可能です。光ファイバを敷いて2拠点間を接続する場合、そのコストはだいたい光ファイバの距離に比例します。ということは、2拠点間の距離がそれほど離れていない場合などは帯域保証型の10Gbit/s専用回線を2拠点で契約するよりも安くなることも可能ですし、光トランシーバなどの費用はかかりますが、波長分割多重などによって20Gbit/sや100Gbit/sなどへのアップグレードも無駄なく簡単にできるようになります。

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